ヤマイの反省の話題

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エロ漫画家の苦悩と反省のおはなし

徒弟制度的漫画の描き方にはもはや何の価値もないのか

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供の頃に親に買ってもらった手塚治虫先生の『マンガの描き方』(光文社)を今でも机のすぐ手に取れる位置に置いて今でも時折参照しているのですが、同書第二章「案をつくる」の中に「四コマ漫画がつくれればどんな漫画でも描ける」という項があります。内容はタイトルが示す通りで漫画を描こうという人は四コマをみっちり勉強しなさいよと説いております。これは何も手塚先生の独創ではなく「四コマは漫画の基本」というのはかつては多くの漫画を描く人にとって共通の認識であったように思います。

 きょう日の漫画の描き方の本に書かれているのは実際の漫画制作にただちに役立つ具体的かつ懇切丁寧なプロットの組み立て方や演出テクニックといったもので、多分四コマをひたすら描けなんてことを書いている本はないのではないかと思います。というか、四コマ漫画を描きたい人にはそれを学ぶための専門書がきっと別に存在しているんでしょうね。

 書店の漫画技法書のコーナーなど見ておりますと総合的な、いわゆる漫画の描き方の他、ストーリーの作り方、キャラの作り方、ポーズの描き方、背景の描き方から服のしわや果てはおっぱい描き方まで細分化された単一のテーマで一冊まるまる書かれたものがずらっと並んでおります。僕が小学校のまんがクラブに在籍していた頃にこのくらい漫画の描き方の本が充実していて、そして親がそれらをすべて買ってくれていたら今頃僕の絵はもっと上手になっていたのではないかと思ったりもするわけですが、それは望むべくもないことなのでしょう。

 当時は手探りで漫画の世界を開拓してきた先人達が第一線で活躍していた時代、彼ら自身が自分がどうしてここまで上達してきたのかちゃんと説明する言葉をまだ持っていなかったのでしょう。言ってみればひたすらうさぎ跳びやらヒンズースクワットやらをやりまくり、練習中は水を飲まず闇雲に長時間肉体を酷使していたら大選手になっていたみたいな人達ばかりだったのだと思います。

 今ではノウハウが蓄積され、それらを研究、解析しきちんと整理して言葉にしておこうという人が大勢います。ジャンルごとに求められる技術も違ってきていて自分が描きたいジャンルに必要のない技術まで吸収する必要もなくなってきました。教える人、教えられる人の意識も変化していて、武術映画のお師匠さんのような何の意味があるのかわからない謎の動作の反復やら日常の雑事やらを説明もなく延々やらせておいて、後になって実戦の中でそれが意味のある修行だったのだと弟子に自ずから悟らせるなんて指導法は今時流行りません。

 「四コマは漫画の基本」というのが嘘であるとまでは言えないものの、ひたすら四コマを描きまくるという行為の中に含まれているエッセンスはとっくに抽出されてそれをより効率よく体内に取り込むことができる錠剤に加工済みってことなのでしょうね。

 

くいう僕はひたすら四コマ漫画を描きまくったくちであります。別に修行といった感覚ではなくいわゆるハガキ職人というやつで、さる漫画雑誌の素人の四コマを載せるコーナーに毎月大量の四コマを送りつけておりました。その頃はほぼ毎日四コマを描いていたと思います。その経験は今自分が漫画を描く上でずいぶん役に立っているように思われるので、もし自分が現在単行本をウン千万単位で売り上げ、代表作がことごとくアニメ化されてそちらも大好評なんて作家になっていたら大威張りで前述のような懇切丁寧な技法書で漫画の描き方を学ぶ若者達をせせら笑い、喝をいれたりするところなのですが、残念ながら他人の範とは成り得ない仕事しか残せておりませんのでむしろそういう技法書を今後は積極的に手にとって学んでいくべきなのではないかと思っています。

 その一方で昔ながらの「とりあえずやりゃあいい」的な修練に近いことも趣味的に始めております。冒頭の漫画なんですが、これはKritaというフリーのペイントソフトの「コミックテンプレート」というものを利用して描いております。過去の記事でも紹介しましたが改めて説明しますと新規の画像ファイルを作る際にこれを選択するとあらかじめコマが割られ、下描き、ペン入れ、彩色用のレイヤーが用意されたファイルが出来上がってきてあとはこれに描き込んでいくだけという便利なものなんですが、困るのはどうもこのコマ割りを変更することができないみたいなのです。そんなわけでちゃんとした漫画を描こうという時には大して役に立たない機能なのですが、今このコミックテンプレートを利用して、「同じコマ割り、同じキャラを使いどこまで漫画を描き続けられるか」ということに挑戦しようと思っているところなのです。第三話とありますようにすでに過去に二回同じコマ割りで漫画を発表しておりますので、お暇な時にでもご覧頂けると嬉しいです。

 

yamai-manga.hatenablog.jp

 

 

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 遠回りで効率の悪い修行と実践的で直ちに役立つ練習とどちらがより為になるのか。漫画に限らずスポーツの分野などでもしばしば論議になるテーマではありますが、各人の人生がかかっているだけにさすがに実験して比較してみるなんてことができるものではありませんし、最終的に経験者の印象に基づく世代間の対立に収束してしまう種類のお話であります。結局のところ「まあ、人による」としか言いようのないものなので、とりあえずはどちらのやり方も自由に選べるようになってさえいればいいのかもしれません。

 

おっぱいの描き方 (ニッチな描き方シリーズ)

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