ヤマイの反省の話題

ヤマイの反省の話題

エロ漫画家の苦悩と反省のおはなし

絵が語る言葉に耳を傾けたい漫画

回は人様の作品、しかも作者様本人からサイン入りで頂戴した本であります。頂いたのが発売後間もない9月でしたので作品の宣伝という観点から本当はもっと早く取り上げるべきであったろうと反省しきりであります。僕のブログに宣伝効果というものが全く期待できないという点を差し引いても反省しきりであります。

 取り上げるのはこちら、「岸里さとし」という名前でも活躍しておられるジョポジョリン先生のハイテンションコメディ『こもらしちゃん』です。

f:id:yondokoro:20171113103328p:plain

ジョポジョリン著『こもらしちゃん』(少年画報社)2017年

 そしてこちらがサインであります。ありがたいことですね。

     f:id:yondokoro:20171113104501j:plain

 あらすじといいますか基本的なシチュエーションはいたってシンプル、昭和仮面ライダーシリーズのオープニング曲のあとのナレーションを見習ってできるだけ簡潔に書きますと「こもらしちゃんこと小邑シホは地方都市在住のヤンキー娘である。彼女は日常の様々な場面で激しい尿意に襲われる。こもらしちゃんこと小邑シホは自尊心を保つため、トイレを探すのだ」といった感じになります。手を変え品を変え主人公が尿意に悶え、そこから解放されるさまがフェティッシュに描写されていきます。

 

ころでいわゆるボケとツッコミというやつ、あれは日本の笑いに特有のものだという話をどこかで聞いたことがあります。世界各国の笑いに通じているわけではないのでその真偽は分かりませんが、少なくともモンティ・パイソンやらサタデー・ナイト・ライブなどに代表される欧米のお笑いがツッコミ不在でひたすらボケ倒すスタイルのものが多いというのは何となく分かります。これをとらえて「日本のツッコミ文化は見る者の考える力を損なう常識に寄りかかった貧相なもので云々」なんてことをおっしゃる方が昔はいたようですが、現代ではツッコミというのは単なる笑うポイントの解説役ではなく、それ自体で笑いをとれる複雑な芸になってきているように思われます。

 で、それではこの『こもらしちゃん』はどうかといいますと、現代的な複雑化したツッコミ文化と欧米的なツッコミ不在のハイブリットのような気がします。まともな人間なんかいないのではないかと思わせるようなどうかしてる作品世界において主人公のシホちゃんがツッコミのポジションにつくことも多いのですが、そのシホちゃんからして読者と価値観を100%共有しているとはとても言い難い存在です。時として共感しがたい価値観に基づいたツッコミを入れて周囲のボケ役達を振り回したりします。そもそもこの作品のボケ役達はまっとうな世界に紛れ込んだ異分子などではなくなんかおかしい世界の中でその世界の基準で生きている人々と言った方がいい存在なのです。シホちゃんに一途な想いを寄せるテディ・ボーイ摂津くんの方が本来はツッコミに適任な人材なのですが実は作中一番の異分子であるシホちゃんの理不尽なツッコミによってボケ役にさせられてしまっています。

 この常識と非常識が交じり合い、反発しあうグルーヴ感は是非一度本書を手にとって味わって頂きたいところです。

 

んなふうにここまで書いてきましたが、実のところこんなふうにストーリーを追うだけではこの作品の面白さの一面にしか触れていないというか、言ってしまえば野暮のような気もします。絵と文字によって綴られていくという、漫画を漫画たらしめているところを最大限に生かし切っているのが本作であると思うからです。この作品の本当の主人公は作者の頭の中身をそのままぶちまけたような、作品の世界そのものなのではないかと思うのです。登場人物達が間違いなくそこで生まれ、成長し、今現在も生きて生活しているということを感じさせる世界のこだわりに満ちたディテールはひと通りストーリーを追ったあとの読者をも楽しませるものになっています。二、三度読み返した人間でもまだ気がついていない仕掛けがどこかに隠れているんじゃないか、そんなことを思わせてくれる本作は読者の心持ち次第で値段の何倍もの価値を持ってくれると思います。

 一応同じ漫画を描く人間の端くれとしてこれほど広がりを持ち、それでいてまさに神が宿りかねない程の詳細なディテールも併せ持つ世界を筆一本で構築する力、その世界を豊かなものにしている、これまでの人生で蓄積してきたデータ量は全く羨望に値するものであります。全て形にして描き表したいと思えるほど具体的で情報量の多いビジョンに囲まれて生きているであろうこの作者の境地に自分もたどり着きたいと思ってしまいます。

 この作品は表紙の帯にも書かれていますようにワンシチュエーションコメディ、つまり一ネタで押し切るタイプの漫画ですが、こういうお話を連載するにあたり事前に用意したネタというのはわりと早めに撃ち尽くしてしまうものなのではないかと想像します。そこから話をどう広げていけるかが勝負なんだろうと思うのですがジョポジョリン先生は自分の特殊なレーダーでキャッチした豊富な情報とそれらを全て形にする圧倒的な描写力で世界を、読者の心をどんどんシホちゃんのトイレにしていきます。恐らくはひとかたならぬものであったろう作者の苦労など微塵も感じさせず絵の中から自然に湧き出てきたかのようなストーリー、これこそ漫画ってやつですよね。台詞やストーリーを追うだけでは分からない絵が雄弁に語る物語に耳を澄ませて頂きたいと思います。

 そして僕もただ単に技術を磨くだけでは身につけられないかもしれない「絵に語らせる力」を己のものにしたいものだと思います。

 

こもらしちゃん (ヤングキングコミックス)

こもらしちゃん (ヤングキングコミックス)

 

 

  今回はこんな所で。