ヤマイの反省の話題

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エロ漫画家の苦悩と反省のおはなし

Clip Studio Paintで初めて漫画原稿を仕上げてみた感想

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ロフィールを見て頂ければおわかりかと思いますが僕がこのブログを書いているのにはいささかの宣伝的意図があるのは隠しようのないところでして、今回もまた新作の宣伝を兼ねつつ進めさせて頂きます。

 目下好評配信中の『WEB版激ヤバ!』Vol.80(メディアックス)に16ページのエロ漫画『よしあき君・イズ・デッド』を掲載させて頂いております。この作品単体でもご購読頂けるようなので18禁であることにご配慮お願いしつつよろしくお願い申し上げる次第でありますが、今回本作を完成させるにあたり、セルシスのペイントソフトClip Studio Paint、略称クリスタを初めて本格的に使ってみました。これまで同ソフトはカラーイラストを描く時には大いに活用してきたのですがモノクロの漫画原稿には同社の一世代前のソフトであるComic Studio、略称コミスタを使い続けていたのです。色々戸惑ったところ、感心したところがありましたので以下思いつくまま書いていこうと思います。クリスタに関するあれやこれやは既にネットにあふれておりますし、それらの多くはこれからデジタルでお絵描きをしてみようという人にとって為になる実践的で有益なものばかりですから僕がこれから書くような、どちらかというと感想文に類するものに読み物としての価値がどの程度あるかと言われるとあれですが、何とか多少なりとも価値を付与する努力をしつつ進めていこうと思います。

 

 

     左手がクリスタを使えとささやく

ルシスがクリスタの発売に伴いコミスタの販売を終了し、遠からずサポートも打ち切ると発表した時にはネット上には多くのコミスタ使いの悲憤慷慨の声があふれたものです。僕もコミスタには特にこれといった不満もなかったので正直戸惑いましたし、いずれは移行を余儀なくされるにしてももうしばらくはコミスタを使い続ける気でいましたのですが、あるきっかけで漫画でもクリスタへの移行を前倒ししてみようかという気を起こすに至りました。

 それがこちら、セルシスのタブメイトコントローラーであります。

 

TAB-MATE CONTROLLER

TAB-MATE CONTROLLER

 

 画像の拡大縮小や回転、描画ツールの変更などといった、タブレットのペンやマウスでクリックしたりキーボードで行っていたような操作を左手に持ったこれで行うことで作業効率をアップできるというものです。 

 ゲーム用の左手用コントローラーがこうした用途でよく使われますがこのタブメイトコントローラー、純正品だけあって当然購入時に既にクリスタに対応した設定済みでそのままでも十分使いやすいし設定をいじるのも容易、本体も軽くて持ちやすくて長時間の作業もそれ程苦にならず、しかも値段も安い(店頭で販売されているClip Studio Paint Debutの付いた通常版が4500円、Clipストアで購入できるソフト無し版が2500円。僕は後者を購入したのですが僕が買った時には2000円でした)となかなかの優れものであります。

 実際に趣味的なカラーイラストを描くのに使ってみてとても気に入ったのですが、ただ困ったことには当然といえば当然ですが基本セルシスのソフトでしか使えません。Photoshopなどで使えないのはまあ仕方ないにしても(パソコンにはゲームパッドとして認識されるらしいのでゲームパッドに色々な操作を割り当てるソフトを導入したら何とかなるらしいのですが僕には難しいです)、Macだと現行モデルはコミスタにも使えないのです。Windowsだと設定をいじれないだけで使うことはできるようですね。

 せっかくの良い道具をお仕事で使えないのはもったいないなということで、じゃあ漫画でもクリスタを使おうかということになったわけです。

 

         戸惑ったところ

日日パソコンで絵を描こうという人の大半はペンタブレットを使ってパソコン上で一から描いているのではないかと思いますが、僕は練習はしているのですがそれが未だに苦手でアナログで描いた線画をスキャナでパソコンに取り込んでいます。

 コミスタでありがたいのはコミスタからアナログ原稿を取り込むと自動的に紙の下地から線だけが抽出されたレイヤーを作ってくれることでした。これがPhotoshopなどだとまず白地と線が一体になったレイヤーが出来上がってくるので、ここから透明な地に線だけが写し取られたレイヤーを作ってやらないと後の作業が全く出来ないのです。この一手間が全くいらないのがコミスタの利点でした。恐らくコミスタの登場時はまだ線画をアナログで描く人が多数派だったのでそこに配慮したものだったのでしょう。

 これが時代が進み、タブレット直描き派が増えてきた頃に登場したクリスタではこの辺への配慮は退化するに至りました。そもそもスキャナへの対応自体リリースから何回目かのアップデートまで待たなければいけませんでしたよね。

 クリスタではスキャンすると白い下地と線が一体のレイヤーが出来てきます。ここから線だけのレイヤーを作らなければいけません。やり方は二通りあって1)出来上がったレイヤーをラスタライズした後編集メニューから「輝度を透明度に変換」を選択。2)レイヤープロパティパレットの表現色の欄に表示されている白と黒のうち黒のみオンの状態にした後レイヤーをラスタライズ。

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 2)の操作はこんな感じです。

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 このやり方だと処理をした直後は上の絵のように大抵の場合線がかすれていますのでそんな時にはしきい値を上げてやります。

 こんな具合でPhotoshopに比べればかなり簡単なんですが、一枚絵ならともかく16ページの漫画で一枚一枚こうした作業をするとなると面倒くさいものです。

 こちらの対策を探してネットで他の方の体験談などを検索しているとスキャンまではコミスタで行い、そうして作ったファイルをクリスタで開いて作業されているという方の記事を何件か見つけました。僕も今回の原稿ではそのやり方をとったのですが、ここで勝手が分からず遠回りをしてしまいました。作品のフォルダの中の各ページごとのファイルをその都度開いていたのです。

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 そんなまどろっこしいことをしなくても、最初に作品のフォルダを開いた所にある「.cst」という拡張子の付いたファイルを右クリック、「クリスタで開く」としてやれば全ページひとまとめにクリスタ用のファイル形式に変換されて開いてくれるのだと気づいたのは半分以上のページを仕上げた後のことでした。コミスタだけで作業する分にはFinder上で何かをするなんてなかったものですから背後でどんなファイル操作が行われているかなんて全く考えが及びませんでした。

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 こんな感じで主に完全に全ての作業をパソコン上で行う人には全く関係のないところで大いに戸惑った次第です。実際の作業に入ってからもいくつか戸惑うことはありましたが、そちらは単に手順が違っているというだけでその違いさえ飲み込んでしまえば作業の効率はさほど変わらないわけで、つまりスキャンの段階のように手間が増えたりはしていないだけまだましだしむしろ楽しくもありました。

 

         感心したところ

ミスタをはじめて使った時に感動したのはなんと言ってもトーン貼りが楽になったことでした。特に描画ツールを使って塗るように貼れるのが楽しくてアナログ時代には滅多にやれなかった「トーンで絵を描く」というのを積極的に試せるようになりました。グレイスケールのレイヤーを作り、減色手法をトーン化に設定して不透明度を下げた描画ツールで描いていくやり方は慣れると任意の形のグラデーションを作れるので主に背景の仕上げで重宝したものです。

 クリスタでも勿論同様のことができます。グレイスケールのレイヤーを作り、レイヤープロパティパレットのトーン化のボタンをクリックしてやればよいのですが、感心したのはカラーイラストで使うような筆やスプレー、鉛筆などの豊富な描画ツールをそのままトーン塗りに使用できることです。コミスタに比べて表現の自由度が大幅に上がりましたので網トーンに関してはベタッと均一なパターンが求められる箇所以外は背景のみならず全般的にこちらを使用してもいいのではないかと思いまして、今回の『よしあき君・イズ・デッド』ではそのようにしてみました。

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 エロで恐縮ですが、こういった人体の陰の濃淡など水彩筆やスプレーのツールで容易に描き出せるのでいたく感激した次第です。

 一方少し戸惑ったのはコミスタの場合描画ツールの不透明度がそのまま一般的な網トーンの濃淡の度合いと一致するので、数値が目に見える分安心するのですが、クリスタの場合はカラーパレットのグレー系の色をトーンとして利用する形になっているところです。使い始めて日が浅いので僕が確認の仕方を知らないだけだと思うのですがどの色が網トーンの何%に相当するのかといったことがぱっと見では分からないのでちょっと不安になります。上の絵はあてずっぽうと言いますか、感覚的にグレーを乗せていったものなんですがいかがでしょうか。

 このトーン化したグレーで描いていくやり方はもっと幅広く使えそうな気がしますのでおいおい研究していきたいと思っています。

 そしてこれらの作業でもタブメイトコントローラーは随分と役に立ってくれましたので、これもまた感心したポイントの一つです。

 

       結論と言い訳と物欲

んなわけでおっかなびっくりClip Studio Paintを使い始めてみましたが、原稿一本仕上げた現時点では多少困った点を差し引いても今後も使い続けてみてもいいかなという気がしています。不便さを感じたポイントについては僕が完全デジタル制作のスタイルに移行すれば解決してしまう種類のものですが、これについては当分は不便さを我慢しておこうと思います。

 ここでデジタルネイティブの皆様から単なるデジタルツールへの適応能力や適応努力の不足の言い訳と解釈されることのない気の利いた文章で丸ペンなどアナログツールへの愛着を語ってこのエントリーを締めくくろうと思ったのですがどうもそれは無理であるという結論に達したので、えっとそれじゃ、液晶タブレットが手に入ったらフルデジタルへの移行を検討するので液タブを躊躇なく買えるようにどなたか漫画のお仕事下さい。

 といった所で。