ヤマイの反省の話題

ヤマイの反省の話題

エロ漫画家の苦悩と反省のおはなし

規格外になりたいなんて滅多なことはこの作品を読んだ後では言えない

画を描かせて頂いている身としては一度くらい漫画を作る上での定石を無視したような型破りな作品を描いてみたいなんてだいそれたことを思ったりします。しかし僕の如き非才凡庸の徒が己の力量を顧みずそんなものに挑んでみてもたいていろくな事になりません。それで色々と手痛い失敗もしたものです。

  以前以下の記事で紹介した『踊るミシン』をはじめとする伊藤重夫先生の作品もそんな規格外の名作です。

yamai-manga.hatenablog.jp

 先日こちらの記事にコメント頂きまして、長らく入手困難だった『踊るミシン』を復刊する動きがあるとのことで、復刊なった暁には是非大勢の皆さんに読んで頂きたいところですが、もし僕がこの『踊るミシン』みたいな漫画を描いてみても編集さんから「こんな不親切でひとりよがりな漫画描いてんじゃねえ」と怒られるのが関の山でしょう。下手したらそう評価されかない要素を逆に魅力にしてしまっている、そんな魔法のような力がこの作品にはあるのです。

 

れから紹介するのもまさにそんな作品です。こちらは過去に紹介した『踊るミシン』や『猟奇王』ほどには入手は難しくないと思われますので是非探してみて頂きたい一冊です。

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       横山裕一『ニュー土木』(イースト・プレス)2004年

 

 他人に読ませたいものを書くにあたっておさえておくべきポイントして「5W1H」という考え方が広く知られています。もちろん漫画も例外ではありません。メジャーな一般紙ではキャラクターの魅力が重視されますからその中でもとりわけ「WHO」と「WHY」はしっかり描きこむことが要求されるようです。ところがこの本に収録されている作品にはそのいずれも欠落しております。それどころかこの漫画に描かれているのは恐ろしいことに「WHAT」と「HOW」だけなのです。

 例えば『土木』と題された一連の作品では何もない平原に突如人工の庭園?やら湖とその水底展望施設やら山が造成される、そのプロセスだけが描かれていきます。いつ、どこで、誰が何のためにといったことは一切説明されません。男たちの一団が変てこなコスチュームに着替える様子を延々と描いた『ドレスアップ』や、モデルルームに陣取る武装集団を外部から侵入した二人組が倒していく『モデルルーム』なども同様です。

 僕に限らずこんな漫画を作品として成立させることができる人なんてそうそういないでしょう。この本の作者横山裕一先生は間違いなくその稀有な例外の一人です。

 とにかくこの漫画かっこいいのです。演出、構図、簡潔ながら力のある線で描かれた得体のしれない登場人物たち、書き文字、すべてがスタイリッシュです。そしてただかっこいいだけではなく子供のごっこ遊びのような無邪気なワクワク感も兼ね備えています。それらを堪能するだけで十分面白い漫画を読んだという満足感を得られます。欠けている4つのWを自分であれこれ想像しながら読んでも楽しいかもしれません。

 

こで自分語りを少々。僕は子供の頃から変わり者というやつに憧れていて、しばしば人前でそれを演じてきました。いわゆる中二病というやつでしょうか、それはただ単に人目を引くのが目的の、とても底の浅い行為で今思い返せば恥ずかしさのあまり転げまわってしまいたくなるものでした。しかしそんな安っぽいメッキでもその下の何の個性もない自分が露呈することに比べたらかなりましであったと当時の自分なりに計算していたんではないかと思います。

 意識せずとも勝手に自分の中から沸き上がってきてたとえ周囲から押さえつけられようとも決して萎縮することなく、むしろ押さえつけられることをもエネルギーとしてしまうかのような本物の個性も、無理をしてわざわざ自分から求めなければ手に入らないような、「俺はオンリーワンだから」などとうそぶいていなければすぐに外部の圧力で壊れてしまいそうな安っぽい個性もなく、かといって自分のありきたりさに堂々と正面から向き合いそれを磨きあげ、極めていくといった覚悟もなくふらふらとその境界をさまよい続けてきた結果が今の僕であります。そういう態度の中に何らかの個性が芽生えているように見て頂けたなら嬉しいですが、実際どんなものでしょうね。

 

回紹介した本の作者横山裕一先生がどのように歩んでこられたのか、知る由もありませんがどんなに打たれようとも、そして仮にそれを打つのが自分自身であったとしても決して突出することをやめない杭であったのではないかという気はします。

 今回本書を読み直して僕もそうありたいなんて安易に口走れないほどの強烈な個性を前にあらためて自分のあり方を考えてしまいましたが、まあそんなことは大多数の人にはどうでもいいことですね。とにかく皆様にこの作品を読んで頂き、そのカッコよさに酔いしれて頂きたい。そしてアニメ化して欲しい。といったところです。