ヤマイの反省の話題

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エロ漫画家の苦悩と反省のおはなし

タチカワラインマーカーA.Tに迷う

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つけペンに迷う

ナログで漫画を描く時の道具としてつけペンは現代でも多くのハウツー本などで推奨され、実際に広く使われています。筆記具としては前世紀、下手すると前々世紀の遺物と言っていいつけペンがなぜ今日に於いても漫画の道具の王であり続けているのでしょうか。そういえばつけペンって漫画以外の分野だと現在どういう立ち位置になっているんでしょうかね。

 つけペンの強さはそのシンプルな作りの中にあります。単純ゆえ使用者の利便性に配慮した機構など何もついていないので使いこなすにはいささかの練習が必要ですが、その代わり使用者に制限を課す機構もついていないのである程度使い方がわかってくれば他のどんな筆記具もかなわないほど多様な線を描くことができます。僕ごときの技量の持ち主でもそう感じるのですから達人の域に達した人達であれば尚の事でしょうね。

 僕も長年つけペンを愛用していましてこの原始的な道具が秘めている力に最近少しずつ気づいてきたところですが、気づいたところで突然迷いが生じました。どちらかというと感傷的な理由と実際的な理由の二つによるものです。

 

つけペンを使い始めたきっかけは子供の頃に読んだ漫画の描き方本にそうしろと書いてあったからでした。まあ大多数の人はそんなもんでしょう。偉大な先人が試行錯誤の末にたどり着いた結論がそうした本には書かれているわけで無理に逆らう必要もないし、実際漫画の道具としては最強であろうという実感も得ました。しかし自分の結論ではないということが突然すごく不安になってきたのです。

 子供の頃の僕というのはそれはまあ自分というものがない、他人の価値観に全面的に寄りかかっている人間でして、本当に最近になってそれを深く反省するようなったものですからそんな自分の選択にも不信の目を向けざるを得ない心境になってきたわけです。最終的にまたつけペンに戻ることになったとしても色々自分の頭で考え、試した末にそうしたいという思うようになったのです。これが感傷的な理由です。

 

う一つの実際的な理由、度々このブログでとりあげている漫画の作業におけるパソコンの導入とこれまた関係のあるものです。パソコンで最終的な仕上げを行うようになりまして最近はその比重が徐々に高まってきました。始めはパソコン上での作業はベタとトーン貼りだけだったのが線画の加筆修正など行うようになりかなり大幅な描き直しなどもするようになってきました。アナログでの作業が最終的な絵の完成ではないとなってくるといくらか気持ちも軽くなってきまして、気持ちが軽くなってくると今度はつけペンが持っている気難しさが少しばかりしんどく感じられてきました。もう少し軽い気持ちで向き合える道具が欲しくなってきたんです。

 

道具を選ぶ

候補

んなわけで早速道具選びにかかります。今回は漫画用と称して売られている万年筆タイプのペンの中から選んでみることにしました。この系統のペンは実は以前にも試しに購入したことがあったのですがつけペンにとらわれすぎていた僕はろくに試しもしないまま早々に使えないと結論づけて放り出していました。そういう道具に今一度しっかり向き合ってみるというのは自分の頭で考え、しっかり試して結論を出したいという今回のテーマに沿うものであるように思われます。技術的な面からもある程度は線の入抜きが利くこうした道具が好ましいように思われました。

 このタイプのペンは僕の知っている範囲では以下の3種類存在します。他にも何かあったらすみません。

 

タチカワ 新ペン先 スクールG ブラック 線幅0.20.5mm

タチカワ 新ペン先 スクールG ブラック 線幅0.20.5mm

 

 

 

タチカワ ラインマーカーA・T 0.1mm ブラック LM-01BK

タチカワ ラインマーカーA・T 0.1mm ブラック LM-01BK

 

 

COPIC コピック ドローイングペン F01

COPIC コピック ドローイングペン F01

 

 

  アマゾンのレビューを見比べるてみると最も好意的な意見が多いのはタチカワの新ペン先でしょうか。ですが今回僕が買ったのはそれを除く二つ、タチカワラインマーカーA.Tの0.1ミリとコピックドローイングペンF01でした。別にひねくれたわけではなく僕が買いに行った日にたまたま新ペン先を見かけなかったというだけであります。公平を期すべくそちらもいずれ試してみなければと思っています。

 さて、ラインマーカーA.Tとドローイングペンを書き比べてみますと線の強弱がよりしっかり利くのはドローイングペンの方でした。Gペンには及びませんがあれに近い書き味を目指したもののように思われました。一方のラインマーカーA.Tは一応筆圧にも反応する製図ペンといった感じです。ダイナミックに線の強弱をつけたい向きには少々物足りないかもしれません。

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 この画像では判別しにくいですがドローイングペンはインクの色が若干セピアがかっていますかね。この辺は好みの問題でしょう。

選んだのは

 で、この二つのうちどちらかをその時取りかかっていた原稿のペン入れに使おうと思ったわけですが選んだのはラインマーカーA.Tでした。こちらに関しても気持ち的な理由と技術的な理由があります。

 まず前述の買ってはみたけどろくに試しもせず放り出してしまったペンというのが実はこのラインマーカーA.Tだったのです。あの時は自分で実際に線を引いてみた時の感触ではなく「漫画にはつけペン」というイメージの方に寄りかかって結論を出してしまったので今度はもし同じ結論に達するにしてもイメージではなく実感としてそうしたいと思ったからです。

 もうひとつはラインマーカーA.Tの方が自分の日頃のやり方に近い描き方ができそうに感じたからです。僕はつけペン丸ペンを使っていたんですが丸ペンというやつはかなり弱い力でも線を引けるものですからこちらでは筆圧を「かける」というよりは「抜く」ことで線の強弱をつけていました。そういうやり方にはこちらの方が向いているような気がします。またペン先の形状も判断に影響しているでしょうか。ドローイングペンのペン先の形状がGペンっぽいのに対してラインマーカーA.Tのそれは大きさや形が丸ペンっぽく、紙にペン先を置いた時の視界の遮られ度合いが自分にとってなじみのあるものに思われました。更に付け加えるなら丸ペンはラインマーカーA.Tと同じタチカワのものを好んで使っていたのでメーカーへの愛着や信頼感といったものもやはりあるでしょうね。

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 そんなこんなで僕はタチカワラインマーカーA.Tを手に原稿のペン入れに臨んだのです。

 

ラインマーカーA.Tを使う

直なところ当初は「こいつは使い物にならねぇな」となってつけペンに回帰する結末になるのではないかと半分くらい思っておりました。しかし蓋を開けてみれば結局ラインマーカーA.Tでまるまる原稿一本描き上げてしまいました。

 最初は正直リミッターをかけられたようなもどかしさも少し感じたのです。「つけペンならここはもう少しシャッと線を伸ばせたのに」とか「本当はもっと細い線が引けるのに」と思ったりもしたのですが、それはもうデジタルに任せようと思ったら至らない部分はあまり気にならなくなり、このペンの良いところが感じられるようになってきました。つけペンで引ける最高の線は引けないかもしれませんが代わりにつけペンで引ける平均的な線をつけペンほど気負わずに引けるように感じられたのです。これが僕には何だか楽しい感覚でした。全体にいつもよりリラックスしてペン入れ作業ができたように思います。

 つまり結構気に入ってしまったんです。その事実自体に少し戸惑ったりもしたんですけどね。自分は理容師が安全カミソリを使ったり調理師が深夜の通販番組で扱っているような便利調理グッズを使うのに等しい真似をしているんではないかなんて思ったりしてね。

 実際野菜の皮むきから千切りみじん切りまで何でも包丁だけでできる料理人レベルの描き手にはあえてすすめる必要もないものなのかもしれませんが、個々の作業ごとにそれに特化した道具を使うということに抵抗のない向きにはこうした万年筆タイプの漫画ペンはじゅうぶん試す価値があるクオリティを持っているのではないかと思います。

 ところで本品のアマゾンでのレビューは数が多くない上に厳しい意見もあり、他人に影響を受けやすい僕としてはそんな道具を気に入っている自分というものに不安を感じてしまったりもするのですが、ここは頑張って自信を持って「ラインマーカーA.Tは良いぞ」と主張して人にもすすめていきたいところです。少なくとも説明書通りの使い方をしていればアマゾンのレビューにあるような線がかすれるなんてことはありませんよという主張くらいはしていきたいと思います。

 

さいごに

今後の課題

の先ラインマーカーA.Tをずっと使い続けるかは分かりませんが、そうするとして早めに把握しておかなければいけない事柄があります。ペン先の寿命です。

 ラインマーカーA.Tはカートリッジを交換することでインク補給ができる仕様になっていますが対してコピックドローイングペンは使い捨てタイプになっています。メーカーによるとペン先は摩耗する消耗品だからとのことです。こうしたペン先の寿命は当たり前ですがラインマーカーA.Tにもやってくるはずです。メーカーサイドでつけペンなどよりも長めに見積もっているのは間違いないでしょうがこれは早急に見極めておくべきポイントです。ネットで調べてもユーザーのレポート的なものがあまり見つからないのでこれは自分の感覚で答えを出すほかはないでしょう。

 試しにもう一本買ってきて20ページの原稿を描いたあとのものと線を比べてみます。

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 感触も実際に引けた線もそれほど変化はありません。20ページ位ならまだまだ大丈夫なようです。インクを補給して長く使える作りにしてあるだけのことはありそうです。あとは自分で判断していくことにしましょう。

 

描いたものを見てほしいので

っかくなのでほぼ全ページラインマーカーA.Tでペン入れした漫画を見て頂きたいところです。例によって対象年齢が厳格な漫画なのでここにリンクを貼ることは自粛せざるを得ない関係上どうか検索してみて下さいなどと厚かましいお願いをせねばなりませんがよろしくお願いします。

 8月31日から配信開始の『WEB版漫画ばんがいち』Vol.24(コアマガジン様)にわたくし山井逆太郎作『ドキドキ陸上部』を掲載して頂いております。長身の女性に組み伏せられて無理やりやられてしまう展開が売りの20ページ作品となっております。そういうのがお好みの方、ラインマーカーA.Tで描かれた線をじっくり御覧になりたいという方はご一読頂けると嬉しいです。

 

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 ひとまずこんなところで。